研究概要 |
本研究の目的は,軽度発達障害児の認知機能を生物学的水準で客観的に評価することである.特に,発達障害の多くについて前頭葉機能の問題が指摘されていることから,本研究課題では,前頭葉機能と関連する「環境の変化」に対する認知特性を明らかにするために事象関連脳電位(ERP)を指標とした検討を進めてきた. 初年度である一昨年度は反応時間およびERPを指標としてディストラクション効果の検討を行い,これが個々人の認知機能,特に前頭葉機能を評価する課題として使用できる可能性を示唆した.昨年度はADHD児を対象とした実験を行い,ADHD児の高い転動性は初期知覚処理,すなわち,注意すべき領域への空間的注意の困難,に起因する可能性を示した. 最終年度である本年度も引き続きADHD児等の軽度発達障害児を対象とした実験を継続することが好ましかったが,研究代表者の所属変更により,これが困難となった.そこで本年度は定型発達者(健常者)を対象に,典型的なディストラクション事態の一つであるオッドボール事態での予期しない刺激変化に対する反応と,ADHD特性との関係を検討した. その結果,検出を求められる変化刺激(標的刺激)に対しては頭頂部優勢なERP成分P3bが惹起され,検出を求めない変化刺激(ディストラクタ)に対するERP上にはP3bよりも前方の中心部で最大のP3aが観察された.また,標的刺激に対するP3b振幅はADHD得点と負の相関を示した.これらの結果は,ADHD傾向が高い者は,低い者に比べて,すべきことに対しての処理資源配分が少ないことが示された.
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