研究概要 |
本年度の研究目的は、アクション・スリップ誘導法の確立と基礎データの収集であった。すでに「アクション・スリップ誘導法」を用いて実験的にアクション・スリップを作り出すことに成功していたが、これまでの実験材料はスリップを起こすためだけに作成されており、これらの材料では、系列順序コントロールや認知セットバインディングといった重要機能の関与を検討することはできなかった。アクション・コントロールにおける言語性/音韻性作動記憶の役割を理論的に検討するためには、アクション・スリップが系統的に検出できるように厳密に統制されたアクションの対を作成する必要があった。具体的には、本年度には、左右、上下、前後といった方向や,「2回たたく」というような回数といった情報をアクションの構成要素として計画的に組み込み、それらがアクション同士で入れ替わってもアクションが成立する対を作成した。これらを用いた実験の結果、順序の入れ替わり,ならびに要素間の入れ替わり(スプーナリズム)などを含むアクションのエラーが10%程度の割合で得られることが確認された。さらに、構音抑制という二次課題のもとでこれらのアクション課題を遂行することで、エラーの生起率が50%程度にまで上昇すること、それらのエラーのうち半数程度がスプーナリズムであること、さらに、アクションが完全に入れ替わってしまう順序エラーもこの構音抑制条件においては多く見られることも示された。
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