研究計画のとおり、視知覚の柔軟性を今年度は「高次視覚の順応と残効」の面から研究した。 (1)物体への順応と残効の空間的特性の研究: Morikawa(2005)は微妙な左右非対称歪みを含む顔刺激に被験者を順応させた後では歪みが減少して見えること、および歪みのないテスト刺激は逆方向の歪みを持って見えることを見出した。この知覚的順応と残効が顔刺激に限定されるのか否かを検証するために、コンピュータグラフィクスで顔以外の人工物体を制作しその左右対称性を微妙にくずした刺激を用いて、視覚的順応実験を行った。実験方法はMorikawa(2005)および森川(2004)に準じ、歪みの量をシステマティックに変化させた刺激系列を用いて最も自然に見える刺激位置を測定した。その結果、顔でない人工物体に対しても左右非対称歪みに対する順応および残効が生じることが新たに実証された。この結果は、脳内の顔認識を担当する皮質部位(紡錘状回など)が顔以外の物体の微妙な識別にも関与していることを示唆する。 (2)残効の時間的特性の研究: Morikawa(2005)は古典的な図形残効とは異なり顔の歪みへの残効が非常に長く持続することを見出した。このような残効の持続時間の著しい差が生じる原因は全く未解明であり、高次視覚の柔軟性の特性とメカニズムを明らかにするための重要な研究課題である。本研究では順応刺激の顔とテスト刺激の顔が同一の条件と異なる条件とで残効の減衰関数を測定した。さらに顔でない人工物体の歪みによる残効の減衰関数も測定した。その結果、顔に対する残効の減衰関数は順応刺激とテスト刺激が同一条件と異なる条件とで同じであり、時間特性が順応刺激にスペシフィックでないことが判明した。ところが、顔でない人工物体による残効は、より速く減衰することが示唆された。
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