前年度に行った「高次視覚の順応と残効」アプローチによる研究は一段落したので、その研究成果をまとめた論文を国際学術雑誌に現在投稿中である。今年度は、視覚刺激(顔写真)を繰り返し経験することで再認記憶と刺激の魅力度がどう変容するかに関する研究を中心に行った。この「単純接触効果」研究は当初の研究計画にはなかったが、研究を実施している過程で新たに派生した有望なアプローチである。その結果、視覚刺激カテゴリの元々の慣れ親しみの程度により単純接触効果が異なることが判明した。 第二のアプローチとして、目に化粧をほどこすことによって、顔の知覚がいかに変容するかを心理物理学的実験法を用いて厳密に測定した。その結果、化粧の効果は顔のパーツを独立に知覚するプロセスと顔の印象を総合的に知覚するプロセスの二種類が存在すること、および視覚システムはこれらのプロセスを柔軟に使い分けていることが示唆された。 第三のアプローチとして幾何学的錯視を研究した。単純な長方形の長さの知覚が、曲線部(アール)の導入により影響されること、また、小さな長方形を大きな長方形の中に配置することにより前者の長さが実際より長く見えるという新らしい錯視の発見に至った。これらの成果により視覚システムは一次元の判断にも二次元の刺激配置を柔軟に取り入れていることが示唆された。 なお残念ながら、芸術大学の実験参加者を集めることがかなり困難であるため、当初計画していた「訓練による知覚変容(知覚恒常性の抑制)」からのアプローチの研究は完了できなかった。この研究は来年度も継続し完遂する予定である。
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