脳機能画像法としての近赤外線分光法(NIRS)の特徴は、機能的MRIやPETと比較して、極めて安全、且つ容易に脳機能計測ができることである。そして、実験参加者の身体の動きに比較的頑健で、また複数の参加者の脳機能を同時に記録できることである。このようなNIRSの特徴は、幼児、大きな身体運動、複数の実験参加者の心的相互作用といった事態で野の脳機能計測を可能にした。 幼児の脳機能については、幼児に向けられる発話(マザリーズ)と成人向けの発話の違いを検討し、前頭部、側頭部において、成人向けの発話よりは大きい脳血液の変化があった。ただし、側頭部では話者の違いは見られず、前頭部においてのみ母親の発話に大きな変化を示した。 大きな運動を伴う事態での脳機能計測では、有線領外身体領域(EBA)の活性化を問題にした。この領域が身体部位に反応すること、上肢の大きな運動に関連して活性化が上がること、閉眼条件下の同じ運動のイメージ生成で活性がみられることを明らかにした。イメージ生成には性差があり、男性で顕著だった。この性差は前頭葉の活性にもみられた。イメージ生成をワーキング・メモリの枠組みでとらえることを提唱した。 複数の実験参加者の脳の活性化を同時に記録する試みは緒に就いたところである。今回は囲碁の熟達者が初心者に詰め碁を教える事態での両者の脳活動を同時に記録した。その結果プレイの時期、その後の解説の時期で異なる脳の活性化が両者で見られた。教育への脳機能計測の適用の一例と考えた。
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