本研究の目的は出来事の記憶に及ぼす社会的情報の効果を検討することにある。具体的には、経験した出来事に関する誤った情報が経験後に与えられると、その後の想起の際に、その誤った情報が経験した出来事の記憶として、出現してしまうことが知られている。そのような記憶の置き換えや歪みは、特に他者からの情報として事後に与えられると、一層強力にオリジナルの記憶を書き換えてしまうことが知られている。このような記憶は日常生活では頻繁に起きていることが推察されるが、私達の多くはそのことに気付かない。このことはもしそれが目撃証言のような場合には、取り戻すことのできない悲劇を生みかねない。やっていない人物が犯罪を犯した人物として名指されることになる。では、そのような社会的影響はメディアの力によってさらに強い効果を発揮するのか?本研究の目的は社会的情報を媒介するメディアの影響の程度を明らかにすることにある。実験では、ビデオ(TVのシミュレーションとして)、音声(ラジオのシミュレーションとして)、そして紙面(新聞など)によって社会的情報を伝達し、その情報に誤った内容を加えて検討した。 結果はどの媒体でも誤った記憶の報告が認められたが、ビデオ条件でもっとも誤誘導の効果が大きかった。もちろん、これには情報が伝えられる文脈情報の違いも考慮しなくてはならないが、誤った記憶がTVによって流される情報によって顕著に作られることが示されたと言える。次年度はこのメディアの差の検討にさらに情報の信用性を操作して、信用性とメディアの効果がどのように関連しているのかを明らかにしたい。
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