研究概要 |
出来事を経験することでその出来事の記憶が形成される。しかしその出来事の後に、その出来事に関連する、誤ったもしくはその出来事に含まれていない情報に曝されると、その誤った情報や存在しなかった情報が、あたかも経験された出来事として形成される。さらに、その情報が他人やメディア等によって流されると、その誤った記憶は容易にしかも自信を持って形成されることがわかっている。本研究計画では、誤った情報として、情報の提示モードの影響、および経験者自身が他者から嘘をつくように求められるような状況での、記憶への影響を検討した。前者の検討では、経験した出来事に対して、二人の人物が同様の経験をしたことを会話する。その会話の中に誤った情報が含まれていた。この会話を伝達するのに、ビデオで人物を提示するバージョンと、会話だけを流すバージョンが用意されていた。結果は誤りのない条件に比較して、両バージョンともに、誤った情報を経験した出来事として誤って想起するという結果であった。後者の検討に関しては、事後に嘘をつく方略を採用することで、記憶遂行が劣るようになるというアンダーマイニング効果が知られている。本研究計画では、この効果について、嘘の方略を二つ-つまり、知らないというように回答する隠蔽方略と、嘘をつく昨話条件、起こったことを回答する条件、想起なし条件を用意して検討した。その結果、作話条件の記憶が他の3条件よりも悪く,隠ぺい条件と真実条件の記憶に差がないことが示された。この結果から,隠ぺい方略で嘘を生成した場合には経験した出来事に関する正確な想起は抑制されない可能性があり,メモリーアンダーマイニング効果の生起メカニズムをオリジナル記憶の想起抑制で説明できない可能性が指摘された。
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