本年度は研究実施期間が半期のみであったため、学会発表あるいは論文発表等に至るまとまった成果を上げるには至らなかった。しかし、極めて限られた時間ではあったが、マウスの防御的覆い隠し行動、特にガラスビーズ覆い隠し行動を実験モデルとして、セロトニン系薬物およびベンゾジアゼピン系薬物の効果を効率的に判別するための予備的実験を実施することができた。具体的には、動物がガラスビーズ覆い隠し行動を起こしやすい床敷材と起こし難い床敷材、および通常飼育に用いている床敷材を用いて、上記薬剤について投薬量を4段階に振って投与し、ガラスビーズ覆い隠し行動の変化について検討した。その結果、SSRI(フルボキサミン)およびベンゾジアゼピン系薬物(クロロジアゼポキシド)の投与がガラスビーズ覆い隠し行動の生起を抑制することが確認された。また同時に、本行動を生起させ難い床敷(コーンコブ:トウモロコシの芯を砕いたもの)を用いた場合には、低容量の薬剤投与でも行動抑制効果が明瞭に示されることが示された。これらの結果は、防御的覆い隠し行動、特にその簡便な方法の一つであるガラスビーズ覆い隠し行動が、抗鬱薬(セロトニン系薬物、ここではSSRI)や抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬物)の一次的評価に極めて有効であることを示唆している。さらに、実験に使用する床敷種類を変えることによって、実験の薬物に対する感受性を容易に調節することが可能であることは、多様な精神薬理学的な効果を持つ薬剤について、抗欝効果あるいは抗不安効果を示す投薬量を推測する簡易なツールとしての利用可能性を示唆するものと言える。
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