研究概要 |
本研究では,日本語話者における表層失読と音韻失読に注目し,これらの発達性失読症状を検出可能な検査刺激を作成して失読例に実施するとともに,モデル論的見地から我が国における発達性失読の発現機序を検討することを目的とする. 最終年度である今年度は,発達性失読の発現率が使用言語により異なる現象を説明する「粒性と透明性」仮説をコネクショニスト・モデルを用いたシミュレーション研究により検証した.本説では,1)1文字が表す音韻塊のサイズ(音素数)が大きいほど(粒性:漢字>仮名>アルファベット),あるいは,2)文字(綴り)と発音との対応が規則的であるほど(透明性:仮名,イタリア語,ドイツ語>英語>漢字),読みの障害が生じにくいと説明する.ここで,「透明性」を一定にし「粒性」のみを変化させて漢字と仮名を比較した場合,音韻塊のサイズの大きい漢字の文字音読学習は早く,発達性失読の発現機序の一つとされている音韻障害にも頑健であることが予想される.シミュレーションの結果.健常モデルにおける音韻形態学習,音読学習のいずれの場合も,仮名より漢字の学習が早かった.この傾向は音韻障害モデルにおける音読学習でも同様であり,漢字の方が損傷に対しても比較的頑健であった.本シミュレーションで漢字と仮名を区別する属性はモーラ数のみであり,モーラ数の多い,つまり音韻塊が大きい漢字の成績が良いという本結果は,「粒性と透明性」の仮説に合致するものであった.
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