平成21年度の研究実績の概要は次のとおりである。 基本的には、市民参画型施設管理運営と地域コミュニティの形成に取り組む生涯学習・社会教育実践の地域事例に関する調査を継続し展開した。当初は、福島県会津地域の事例も想定したが、より活性化された地域事例として、同県の飯舘村の生涯学習・社会教育実践に注目し検討した。 飯館村は、平成の大合併と称され1999年の「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」により展開された全国的な市町村合併の動向中で、合併協議会を設立しつつも慎重な検討を重ね最終的には自立の村づくりを選択した地域である。その検討過程の中で、村民は東北の農業問題や過疎問題・少子高齢化問題を視野に入れながら、将来の村づくりを真剣に議論し「飯館村自立計画」の策定にいたった。その計画づくりの展開過程において、改めて、飯館村は地域コミュニティの再生をはかり、その担い手として村民の自己教育・相互教育を促進させている。地域コミュニティの再生を促進させるその村独自の対応方法は、村の生活実態や村の地域文化に即した独自のものであり、「までいライフ」の創造へと展開した。「までい」とは、「手間ひまを惜しまず」と言った意味であり、飯館村の地域色豊かな独自の表現である。漢字で記せば「真手」とも表現されるが、高度情報化社会の現代社会にあって、地域の生活文化・生活スタイルに即した地域住民のネットワークの再構成を促進させようとする村づくりの基本理念が、スローライフを標榜する「までいライフ」の希求に示される。 格差社会の拡大ともいわれる多くの現代的課題を抱える今日にあって、地域文化への再確認を基盤とするこうした飯館村の地域コミュニティの再生と村民の地域行政や地域事業・施設運営への参画過程は、東北の一農村が展開する智恵と工夫に満ちたものである。その展開過程の追跡と整理を通して、それぞれの地域が抱える現状に即し、地域社会の再生を追究する生涯学習・社会教育実践の展開を支えるに足りる示唆の究明を試みた。
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