本研究は、フランス革命期に、革命戦争によりフランス領となった「併合地」に対し、「公教育組織法」(ドヌー法、1995年)に基づいて施行された公教育の実態を、フランスおよび当時の「併合地」の古文書館所蔵手稿史料を用いて解明し、従来、理論面の研究にとどまっていた革命期の公教育について、併合地も視野に入れて、理論と実態の両面から全容を明らかにしようとするものである。本研究においては、刊行史料の存在しない「併合地」の公教育組織作業を解明するにあたり、未刊行史料の調査・収集が重要であるため、平成21年度は、調査を続けてきたフランス国立古文書館所蔵の「併合地」の公教育関係の史料について、未収集であった地域の史料の収集を行った。また、その分析をすすめ、当時の併合地(現在のスイス西部のフランス語圏地域、ベルギー、ルクセンブルク、ドイツ西部)の公教育の施行状況の全体像の解明につとめた。いくつかの併合地については、フランス国立古文書館における史料の残存状況が必ずしもよくないことが明らかとなったが、革命期の公教育が併合地全般において実際に施行されていたということ、施行に際してきわめて積極的であった地域と消極的であった地域にはっきりと分かれるということを実証することができた。この差異の社会文化的背景についての調査・研究の必要も痛感されたので、本年度はフランス語圏併合地について、当該地域の古文書館にも赴いて史料の調査・収集を行い、これらの史料と、当該地域の歴史的、社会文化的背景の分析をすすめた。その成果の一部をまとめ平成22年度に刊行する予定である。フランス革命期の併合地において、政治的側面の影響関係ばかりではなく、文化的側面での影響関係が広く展開されていたという本研究のもうひとつの成果については、ドイツ、ベルギー、スイスの研究者の協力を得ながら、さらに史料収集を進めて研究を深めていくこととしたい。
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