1.オハイオ州教育省・シンシナティ市教員組合を訪問し、教員給与における成果主義がどのように位置づけられているかインタビュー調査をした。シンシナティ市では1990年代に一時期成果主義が導入されたが、教員の強い反対にあって断念したこと、現在では減額措置を伴わない手当制度の導入というかたちで成果主義が部分的に制度化されていることを確認した。 2.オハイオ州教員組合のSue Taylor委員長を訪問し、教員評価制度に関する教員意識調査を行うための予備会合をもった。シンシナティ市教員組合では調査の実施を断られたが、Sue Taylor委員長からは実施に協力する旨の回答を得て、内容や方法については引き続き調整していくこととなった。 3.勤勉手当への部分的反映から、昇給そのものに査定を反映させるといった具合に、日本でも成果主義が導入されようとしている。合衆国における成果主義の受容に照らし、不服申立制度の整備や評価結果の本人開示が制度の運用に不可欠であることを言及した(論文1)。 4.日本の教員評価をめぐる改革は資源の効率的・重点的予算配分を目的としたものであり、メリハリある給与体系というかたちでの成果主義の導入も義務教育費のコスト削減が目的であることを明らかにした。同時に、日本における成果主義の導入は合衆国とちがって教育労働を時間管理の対象へ切り替え、専門職観を問い直すものであることを指摘した。(図書1、論文2) 5.教育再生会議の第一次報告の教師観を分析し、教員の質の向上に向けた、社会の多様な分野からの人材採用、免許更新制の導入といった提言が合衆国の教師政策に共通する志向であることを明らかにした。そして評価の拡大と厳罰主義・擬似能力主義(成果主義)を徹底することは必ずしも教師を専門職化するものではなく、学校の階層化・脱教育化をもたらすものであることを指摘した。
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