1. ニューヨーク市教育局のPhil Vaccaro氏を訪問し、学力テスト成績結果と教員給与とを連動させる新制度についてのインタビュー調査をした。ニューヨーク州では報償プログラムが立案され、2008年度より実施されている。生徒の成績と学校予算配分をリンクする際に、学校ごとに委員会を設置し、報償費をどう配分するかを学校単位で決定する制度であることを確認した。 2. ニューヨーク州教育局のTerry Bowman氏を訪問し、学校評価と連動させた学校予算配分・教員給与の制度設計過程についてのインタビュー調査をした。慢性的な教員不足を背景に、教員組合との合意のもとに制度設計が行われていることを確認した。 3. 教師の勤務条件の原理的基礎となる教師の教育の自由をめぐる昨今の議論の状況を俯瞰した。効率性・成果主義とは異なる管理統制のあり方に対する原理として、子ども・教師の市民的自由が主張されている。しかし市民的自由の称揚は必ずしも教師の教育の自由を否定するものではないことを明らかにした(論文2)。 4. 日本の教員給与体系の見直しはまだ行われていないが、前提となる教育予算編成過程における力学の変化が、アウトカムベースの予算編成へという予算編成原理の転換のもとに行われていることを明らかにした。インプットベースからアウトカムベースへの移行を促す変化は、合衆国の教員給与制度改革の中心的原理である成果主義が日本の行政改革に浸透し始めてきていることを示している(論文1、3)。 5. 教師の勤務条件や資質向上策についての国際比較を行う中で、合衆国の場合、量的・質的教員不足が恒常化していることが、教員給与を含む諸制度改革の方向性を規定する基本モチーフになっていることを明らかにした(図書1)。
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