本研究の「研究目的」は、シカゴ大学時代のデューイ自身の講義ノートの分析をもとに、デューイの教育思想の形成過程におけるヘーゲル哲学の影響について再評価をしようというものであった。 19年度の「実施計画」としては、第一に、デューイの演習と講義ノートを入手し、実験主義の形成過程をヘーゲル的観点から分析することと、第二に、デューイの講義ノートを第一次資料とするデューイ研究をレビューし、それらを批判的に検討することにより、シカゴ時代以降のデューイ教育思想の中に「ヘーゲル哲学の継承と残滓」に関する再評価を行うことであった。 「実施計画」の第一については、南イリノイ大学のデューイ研究センターへ訪問する機会をもたなかったため、昨今の欧米の研究者による第二次資料としての論及部分の分析に限られたが、デューイの講義や演習の大枠については把握することができた。第一次資料の入手と分析は引き続き、今後の課題である。第二については、19年度は主に、デューイの論理学や認識論的な観点から、デューイがヘーゲル哲学の絶対的観念論や弁証法的な形而上学からの離脱を意図しながらも、継承している側面、また超克を意図して新たに構成された諸概念について明らかにした。この探究において、ヘーゲルからの影響を論じる上で、ヘーゲルによるカント批判をデューイがどのように評価したかも重要なテーマであること、またヘーゲルの概念-概念形成のモーメントや有機的統一など-を、論理的で操作的な概念へと変換したことで、デューイの独自の論理学の自然化が実現されたことを明らかにした。
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