平成19年度は、ジョン・デューイが1920年代初めに日本と中国を訪問した時に書かれた論文や書簡集などを収集整理して分析を行い、その研究成果を日本デューイ学会を発表した。その成果は、名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要に掲載され、日本デューイ学会紀要にも論文を投稿した。 1. 収集した文献や資料などを分析整理して明らかになったのは、デューイが日本と中国を訪問して異文化に生きる人々と実際に接したことによって、両国の文化・政治・教育・人間に対して異なった評価と期待を抱くようになったことである。 2. 日本に関しては、滞在中に見聞した日本文化を高く評価したにもかかわらず、専制主義的官僚制と天皇崇拝が疑われることなく人々の心にいきわたっているため、西洋的な文物の文化的借用方法と日本的な精神とが乖離したままで併存している和魂洋才の伝統を「文化的二重性」と批判し、当時の日本におけるリベラリズムの矛盾を指摘していたことを明らかにした。 3. それに対して、中国では2年間以上にわたって生活したことによって、近代化を妨げている原因を中国人の考え方や生き方に見いだすとともに、アメリカの実験主義的リベラリズムと共通する要素をデューイは認識した。それらの要素とは、中国人が共有する、政府に対する不信感とそれを補うための自助の伝統やボランタリズムの習慣などであり、中国はそのような文化的伝統に基づいて「内からの変容的成長」を遂げることができると提案したことを解明した。 4. この比較分析とともに、中国の大学における研究者と交流を開始することによって、中国におけるデューイ教育理論やアメリカの教育実践の影響や普及についての研究が幅広く開始されているという情報を得たため、新たな文献資料などの収集を開始した。これらの文献資料などを分析することによって、さらに新たな知見の獲得に努める予定である。
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