平成20年度は、イギリス北アイルランド(ベルファウスト市、デリー市)およびアイルランド共和国国境地域(ドネゴール地域)の現地調査を実施した(平成20年11月29日-12月7日)。調査の焦点は次の2点にある。第1に、漸次的なEU資金の削減によって組織基盤の脆弱化に直面するボランタリー・コミュニティ組織が「社会的企業」へと脱皮しようとした時、どのような課題が浮上してくるのかを検討することである。第2に、社会的企業の機能および可能性について、とりわけ社会的に排除されている人々の自立支援という観点から分析することである。前年度に調査を実施したスウェーデンや日本と比較したイギリスの特徴は、福祉国家から福祉社会への移行過程において、単なる公共サービス供給のみならず、社会的排除問題解決のツールとして社会的企業を位置づけている点に求められるが、3国間の比較の視点を持ちつつ、その実態と課題の解明を試みている。これらの成果として『日本社会教育学会紀要』(No.44)論文がある。NPOの下請け化と自立という現代的論点にかかわる論稿(近刊、ミネルヴァ書房)および若者問題を軸とした社会的排除と回復プロセスに関する試論(『犯罪社会学研究』)も発行予定である。また、イギリス調査と並行して、前年度に実施したスウェーデン調査の成果報告(日本協同組合学会)および統計的なデータ収集・集計なども継続して行っている。近年、雇用の不安定化に代表されるように、わが国においても社会的排除と自立の問題は重要なテーマとなっている。単なる経済的な自立だけでなく、社会的自立支援の担い手ともなりうる日本型社会的企業モデルの確立を、とりわけ個の成長と協同実践の相互発展的アプローチという観点から目指すことの意義は大きいと考えられる。
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