平成21年度の主な研究活動は、(1)イギリスの社会的企業調査(ロンドン、北アイルランド・ベルファウスト市/デリー市:平成21年7月27日-8月5日)、(2)日本の自立支援に取り組む社会的企業調査である。研究調査活動の焦点は、社会的排除層の自立支援に関わる労働統合的社会的企業の実態と機能を、職業的自立に限定されない包括的なキャリア形成という観点から考察することにある。前年度に引き続き実施されたイギリス調査では、おもに長期失業者(障害者を含む)を対象とした社会的企業の実践が、就労や社会復帰にむけてどのような支援を展開しているのか、職員および当事者のヒアリングをもとに検討した。若者自立支援事業に焦点化した国内調査に関しては、日本における社会的企業の典型である労働者協同組合が取り組んでいる若者自立塾のスタッフおよび当事者のヒアリング調査にも着手している。 これらの調査活動を基礎に論点提示を試みてきたのは、多様なロジックが混在する社会的企業の中核的な実践的・理論的課題を「社会性」理解との関わりにおいて明らかにすることであった。その成果は『協同の発見』誌論文や学会報告等の機会において発表してきた。また、実証的研究に裏付けられた労働統合的社会的企業論を社会教育学的観点から構築する試みとして、若者問題を軸とした社会的排除と回復プロセスに関する試論『犯罪社会学研究』論文等がある。 社会的企業の振興は、民主党新政権による「緊急雇用対策」(2009年10月23日)等でも明言されるように、諸施策において重要な政策課題として浮上している。これらの新たな展開をも踏まえつつ、雇用に限定されない包括的・協同的エンパワーメントアプローチに基づいた実践的装置として機能するためにも、その実態・機能・役割に関わる検討は、これまで以上に重要な課題となってくるものと考えられる。
|