本研究では、Fr.フレーベルの未刊行資料(遺稿)の収集とその解読を通じて、フレーベル教育学の到達点と考えられる家庭育児書「母の歌と愛撫の歌」(Mutter=und Kose-Lieder)の成立過程を解明し、本著の原型を資料的に復元すると共に、家庭育児書として本著の制作に込められたフレーベルの教育的意図の本質を解明した。東西ドイツ統一後、ベルリンの「陶冶史研究図書館」(BBF)並びに、バート・ブランケンブルクの「フレーベル博物館」に集約されたフレーベルの本資料の解読は、フレーベル書簡の解読とそのCD-R化により、大変な進捗を見、新たな「フレーベル像」を提示した。また、その主著である「母の歌と愛撫の歌」の成立過程の研究は、晩年のフレーベルの活動を具体的に示すものである。中でも、フレーベルが育児書の制作に込めた「絵(絵画)・音(音楽)・詩(ことば)」の一体化の試みは、育児書として、当時の世界で、とりわけ、西欧諸国では注目されるものであった。残念ながら、本育児書は、銅版画による印刷のため、大変な高価なものとなり、一般的には普及しなかった。芸術作品としての育児書の制作を熱望したフレーベルの意図は一応、達成されその教育理念は明確になったが、家庭の中に、あるいは、社会には浸透しなかった、と結論される。 なお、今回の調査で、本書の「試し刷り本」が、現在「ベルリン国立図書館」に「絵本」とその付録の形で「メロデー本」が保存されている。
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