最終年度の今年は、二つの報告書を作成することが出来た。第1冊は、坂元忠芳著『勝田守一教育学ノートその戦前と戦後』(総頁232数)である。坂元都立大学名誉教授による勝田守一教育科学研究会初代委員長(1908年から1969年)に関する聞き取り調査の成果であり、聞き取り調査をもとにする坂元氏による論文化である。アジア太平洋戦争を挟んで、教育科学研究会が戦時下どのような教育学を形成し、戦後、それをいかに反省し、総括したのか、その上で、戦後教育学をいかに形成しようとしたのか、この点を勝田守一に即してほぼ全面的に明らかにした論稿となった。先行研究を越える研究成果になったものと思う。 もう1冊は、『アジア太平洋戦争と教育科学研究会の発足・解散・再建』(総頁66頁)である。研究協力者前田晶子鹿児島大学准教授の「現代の教育改革における教師の「使命感」の問題」を載せ、勝田の教育の倫理性論文(1951年)を分析出来たことは重要な成果であった。 この冊子で、佐藤広美は、これまでの研究蓄積を生かし、戦後、何故、教育科学研究会は再建されたのか、どのような教育学構想を持っていたのか、を教育思想史的に分析した。勝田の教育的価値論は、戦前の自らの教育学の厳しい反省を踏まえ、国家との屈伏と戦争今の荷担を許さないためにこそ、勝田は、「子どもとともに生きる教育実践」のための教育学の形成を志したことを実証的に明らかにした。この視点は、従来の研究にはない、重要な成果であったと確信している。
|