平成19年度は学校改善サイクルとしての「学校評価」導入のドイツ各州における現状を整理し、論争・論点の所在を探ることを課題とした。 1.学校法レベルないしは行政規則レベルでの学校評価の導入の現状については、各州文部省のウェブサイト及び議会議事録、雑誌記事等を参照することによりドイツ各州の状況をおおむね整理できた。 2.論争・論点の所在については、実用的な学校評価のノウハウを扱う大量の議論とは別に、教育管理の原理原則を問う議論が相当蓄積されていることを確認した。本研究課題は現状の整理・紹介ではなく理論史的考察を意図するものであるから、そうした原理原則を問う議論に着目して文献の収集に努めた。 3.現時点で最も先鋭な論点と思われるのは、「学校評価」につながる一連の教育政策が「新自由主義的再編」の一環と見なしうるかどうかという点である。各学校に教育活動上の「自律」を認め、その内容を「学校プログラム」として編集させ、それを行政当局による「学校評価」にかけることで教育の質の向上を図るというドイツの教育政策の近年の方向性は、学力水準の全体的向上と機会均等の保障を目指すものと理解されてきたが、実はそれらは伝統的な意味での公教育制度の解体と教育機会の格差拡大をもたらすものなのかもしれない。このように定式化される問いに迫るべく、次年度の研究作業と総括に取り組みたい。特に、本研究課題が理論史的仮説として設定した戦後ドイツの教育政策の「画期」の性格について、「新自由主義」を手がかりとしてより洗練された形で論じることができるのではないかと、現時点では考えている。
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