研究課題
平成21年度の研究目的は、教育の自律性を規定する「教育目的論」をA.理想主義的な倫理的人格形成論、B.現実主義的な専門知識重視論、C.教育技術的な教授論の3つに弁別した言説(discourses)の両義的側面に着目して考察することにあった。その目的を達成するため、4-10月には、新教育運動のリーダであり、その後の進歩主義的な教育に影響を与えたパーシー・ナンの著作『教育』(1926)の文献を考察した。4月には、研究協力者であるMr.Gary Foskettを招聘し、教育行為者の観点から助言指導を得た。その研究を成果としてまとめるために、7月末に渡英・滞在してロンドン大学にて3本の研究論文の執筆に着手し、12月のイギリス教育史学会大会において、他の研究協力者のDr.Peter Cunningham、Prof.Loy Lowe、Mrs Wanda Hamiciらとも研究会を実施し、それぞれの見解を加えて考察した。その要約は、新教育運動の主導的論者の思考回路に依拠しつつ、「教育目的と個人の生活」、「個性と教育における遊び」、「自己の成長と学校」の観点からアプローチするものとなった。最終的に、教師の行為コードの規定化を導いたナンの教育思想は、当時台頭し始めた生物学、心理学の知見を、理想主義的な倫理的人格形成論の見地から個人主義の思想に融合させる形で教師の専門職化を導いたものである、と考察した。その上で、ケンブリッジ大学、ロンドン大学教育学研究所及び同図書館、バーミンガム大学、シェフィールド大学での史的調査、そしてグリニッジ教育委員会、サザーク教育委員会での意見聴取も実施し、今日に繋がる進歩主義教育の思想潮流の過去と現在を俯瞰した。また、本研究の延長線上の研究(翻訳、シンポジウム提案、受容史)も並行して実施し、新教育思想研究の知見を再確認、再検討した。ただ、C・バートとP・ナンの思想的相関性及び政治的力学の精査に関しては、有力な仮説は設定し得たものの、未だ、確実な立証には至らなかった。この点については、引き続き継続して研究し、平成22年度内に論文として公開する予定である。
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Research Bulletin of Education, Education Major, Graduate School of Letters, Mukogawa Women's University 5
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History of Education, HES, UK(Routledge Taylor & Francis) Vol.38, No.6(iFirst)
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