研究概要 |
イギリス新教育運動の言説には、(A)理想主義的な倫理的人格形成論、(B)現実主義的な専門知識重視論、(C)教育技術的な教授論が内在し、それらは教育行為の自律性を規定する。本研究では、中央政府刊行『教師の手引書』(1905)、新教育運動家らの刊行する雑誌(The New Era, 1920-1929, Conference Report of New Ideals in Education(1914-39)やP.ナンのOn Education(1926,初版:1921)から諸言説を抽出し、上記の(A)、(B)、(C)に類型化し、教師の専門性の特徴と専門職化の基礎論を解明した。教師の「行為コード」の概念化を導いたナンは、生物学と心理学の知見を教師に伝授し、それを理想主義の倫理的人格形成論の見地から個人主義の理念に融合させ、教師の専門職化の理論を形成した。それは、「市民としての個人・自己の全的発達」を教育目的と定め、「社会的文脈において個としての子どもを理解する能力」、「個性と遊びの意味を重視する態度」、「学校の役割を自覚的に捉える姿勢」によって構築されていた。また、これらの教育思想・理想は、全体としての人間の形成を可能にするという意味において、今なお有効性を発揮するということを、イギリスの教育実践者の視点を介在させることによって確認した。
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