本研究テーマ、教育における平等・社会的公正とトラッキングは、国際的には学力不振層やマイノリティの教育への機会均等、社会的再生産のテーマとの関連で極めて関心の高い領域である。そのため、西欧諸国を中心に、脱トラッキング(detracking)の動きはしばしば学校の民主主義的な使命の実現と結び付けられて理解されてきた。そうした中で、初等教育においては「学力・能力等の指標によってグループ分けをして指導する」という意味での「学校内トラッキング」を行わなかった日本は、平等主義的教育を実現した例として、国際的にはしばしば評価されてきた。だが、その日本では、初等教育も含めての習熟度別指導の導入等の変化が見られる。こうした変化状況の分析をしながら、国際的な社会的公正とトラッキングをめぐる議論(ミクロな学校内・教室内組織編成や教育実践)と、日本の教育制度の特徴から来る高校間格差を軸としたマクロな議論とを連結しながら国際的ディスコースに日本の事例をのせることが目指された。 本年度は、本研究の最終年度であり、結果のまとめと発信、今後の研究へとつなげることに力点が置かれた。第一に、国際的な議論の中で、トラッキングの何が問題となってきたかの整理(一部は図書としてまとめた『子どもたちの三つの「危機」一国際比較から見る日本の模索』)を行った。また、初年度における海外と日本での調査の過程で、本研究は二年の短期プロジェクトであり、今後の発展性の観点からも、国際的に見た日本版トラッキングの特徴を、制度面、構造面と実践面を結びつけて位置つけ、国際的な議論に引き付けて提示することが大きな目標となつた。本研究に参加した大学院生・ポストドック(計5人)海外協力者(1人)を含めたセッションをアメリカのアジア学会で組織し、海外の研究者からのフィードバックを求めると共に、英文報告書もまとめた。
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