本研究の目的は今日の不登校現象の社会・文化的多様性を解明するとともに、その多様化の観点から現行の支援ネットワークの実態を批判的に検討することにある。今年度は最終年度として研究の総まとめを行い、学会で発表するとともに報告書を作成した。 我が国における不登校研究は、長い間登校への忌避を個人的な病理とする視点に依拠した心理学や精神医学による研究が主流だったが、「格差社会化」が進行していると言われる中で「子どもの貧困」の問題が指摘され始めている。不登校問題についても家庭の劣悪な社会経済的背景に起因して怠学傾向や非行傾向の見られる不登校に注目が集まっている。こうした中で、本研究ではある県を対象に行った調査により「脱落型不登校」が相当数を占めることを指摘した上で、こうした現状に対応しようとして2008年度に実施された「スクールソーシャルワーカー(以下SSW)活用事業」について報告した。また児童福祉領域において、不登校の問題に積極的に関与していこうとする動きがあることについて、東京都の子ども家庭支援センターの取り組みの事例を報告するとともに、児童福祉の関係諸機関において不登校相談事例が増加していることを報告した。 以上の分析をふまえた上で、過去の不登校について、それが神経症的タイプをモデルとして考えられてきたことの妥当性について検討するとともに、不登校という問題の捉え自体を批判的に考察し、長期欠席あるいはより包括的に「学校に行かない子ども」という問題把握が必要になっていることを指摘した。
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