本研究では国境を越えて活発な議論や実践が行われているヨーロッパの「シチズンシップ教育」に焦点をあわせ、ヨーロッパ審議会やEUなどの超国家機関の「シチズンシップ教育」の構想を明らかにするとともに、それが各国で取り組まれている「シチズンシップ教育」にとのような影響を及ぼしているのかを、ドイツとオーストリアの事例から検証することを目的としている。それぞれの国で、超国家機関の提唱する新しい「シチズンシップ概念」が、どのように受容されているのか、あるいはどのような葛藤が生じているのか、そして従来からある「シチズンシップ教育」にどのように接合され構築されようとしているのか、両国を比較しながら検証していく。 そのため、平成19年度では、9月に渡欧し、オーストリアの文科省(ウィーン)の政治教育担当シュタインニガー(Steininger)氏にインタビュー調査を行うとともに、教科書や文献収集を行なった。また、ドイツでは連邦政治教育研究所(ボン)において、文献収集を行い、シチズンシップ教育が両国においてどのように具体的に捉えられ、実践されているのか検討した。さらに、ヨーロッパ委員会の生涯学習研究センター(CRELL、イスプラ(伊))において、ホスキンス(Hoskins)氏にEUで進められている「ヨーロッパにおける行動的な市民(シチズンシップ)」について、その概要と評価基準についてインタビュー調査を行なった。これらの調査から、ヨーロッパにおいては「シチズンシップ教育」の構想を広める欧州審議会の活動とともに、ヨーロッパにおける共通の枠組みをつくり、各国の実践の評価をし、促進を促すためのEUの活動が相補的に展開していることが明らかになった。各国の「シチズンシップ教育」に関する研究が多くあるなかで、その背景となるヨーロッパレベルの教育構想についての研究例が少ないため、ヨーロッパ審議会やEUの教育戦略を追究する本研究の意義は高いと考えられる。
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