前年度に引き続き、ヨーロッパにおけるシティズンシップ教育を巡る理論・思想・政策について、特に欧州評議会とEUのアプローチの相違点を検討した。EUは欧州評議会におけるシティズンシップの理念を継承しながらも、欧州評議会とは異なるアプローチをしているとことに特徴がある。欧州評議会がシティズンシップ教育の啓蒙とネットワークの構築に取り組んでいるのに対し、EUは知識基盤型経済への移行を踏まえ、社会的結束をもたらすものとしてアクティブ・シティズンシップを推奨し、インディケータの開発により、各国のアクティブ・シティズンシップの到達度を数値的に測定し、各国に働きかけていることが明らかになった。その研究成果は2009年6月に開催された日本国際理解教育学会第19回大会(於:同志社女子大学)において、「シティズンシップ教育をめぐるヨーロッパの動向-欧州評議会とEUの取り組みについて-」という題で発表した。 また、前年度の調査結果では明らかにならなかった、オーストリアの教員養成におけるシティズンシップ教育の取り組みを調査するために、2009年10月27日から11月3日にかけてウィーン大学の政治教育講座を訪れ、ザンダー教授(Prof.Sander)へのインタビュー調査を行った。その結果、オーストリアではドイツと異なり、戦後はナチスの被害者であるという認識から民主主義の再教育を行う必要性が認識されず、シティズンシップ教育を担う教科としての「政治教育Politische Biludng」が行われなかったことがわかった。しかしながら欧州評議会の呼びかけに積極的に対応し、2008年からはカリキュラムに「政治教育」を導入するとともに、政治教育担当の教授ポストを初めて設置し、シティズンシップ教育の推進にとりくんでいる。このように、ドイツとオーストリアでは、シティズンシップ教育の歴史的背景が異なることが明らかになった。
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