研究概要 |
3か年の研究計画の最終年度にあたる平成21年度には,前2年度に引き続き東アジア諸国・地域(対象は中国,台湾,香港,韓国,日本)の高等教育制度及び大学入学者選抜制度に関する文献資料(日本語・英語・中国語)の収集・分析を行うとともに,個別機関を訪問して関き取り調査を実施した。後者に関しては,他の研究課題等で訪問する機会を利用したものも含め,北京師範大学(中国),国立台湾師範大学(台湾),香港大学(香港),韓国大学教育協議会,梨花女子大学,ソウル市立大学(以上,韓国)等で関連情報の収集を行った。本年度の研究成果としては,中国の高等教育を総体的に理解するうえで重要だと考えられる高等教育独学試験制度に関して日本高等教育学会2009年度研究交流集会において報告を行うとともに,『中国高等教育独学試験制度の展開』を刊行した。また,『リクルート カレッジマネジメント』誌で発表した「中国の高等教育戦略(前編)急激な量的拡大と質の維持・向上に向けた改革の進展」において中国の近年の高等教育改革を概観した。 また,以上の作業をふまえて,3か年の研究成果のまとめとして研究成果報告書『東アジア諸国・地域における大学入学者選抜制度の比較研究』を作成した。この報告書では,中国,台湾,韓国,日本における大学入学者選抜制度の改革動向を個別に整理・検討したほか,それらの比較分析を試みた。その結果,どの国・地域でも新たな制度の導入が行われ,大学入学者選抜制度の多様化が進んでいるという共通性が確認できること,その一方でそれぞれの歴史的経緯や社会状況によって改革の焦点や方向性には違いがあることが明らかになった。こうした知見は,日本の大学入学者選抜制度を相対化して考えるうえで示唆を与えるだけでなく,各国・地域の教育のあり方を理解するうえでも重要な手がかりとなるものである。
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