研究概要 |
本年度は,オーストラリアのクイーンズランド州を対象にして,クイーンズランド教育省,ロングリーチ中等学校、ロングリーチ遠隔教育学校,オーストラリア農業カレッジ,ケルビン・グローブ・カレッジ,アルバニー・クリーク中等学校等を訪問し,州の進路選択指導政策,クイーンズランド州における大学進学手続き,進路選択過程について調査・研究を行った。 訪問調査の結果,(1)クイーンズランド州では,学校から社会への接続という点が重視され,大学進学もキャリア形成のための選択肢のひとつとして位置づけられていること,(2)中等学校10年生から「SETプラン」という進路指導が行われていること,(3)そのために週1コマのキャリア教育プログラム等が実施されていること,(4)中等学校最終学年では,週1日まで働いて給与を得ることが単位として認められており,このような制度も学校から社会への接続にとって有効に機能していること,(5)クイーンズランド州のキャリア・ガイダンス政策にカナダのオンタリオ州のキャリア・ガイダンスが影響を与えていること,等が明らかになった。したがって,今後,高校と大学のスムースな接続のために中等学校内での進路選択過程における指導・支援のシステムをより詳細に明らかにすることが重要である。 また,我が国の高校多様化政策と大学入試多様化政策の帰結が高校での学習内容の拡散と「受験シフト」の先鋭化を招いたこと、大学で必要な技能の分析結果,を踏まえると高校での成績評価に基づく大学入学システムが適していることと結論づけられることになった。もちろん短期的には不可能であるが,長期的には,オーストラリアのクイーンズランド州を参考にすれば,成績評価の公平性を保証するためのモデレーションのシステムを備えた高校の成績に基づく大学入学システムが大学ユニバーサル化時代にふさわしい高大接続モデルのひとつであるといえる。
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