本年度の研究は以下の3点を遂行した。 1.これまで蓄積したイギリスにおける教職課程(PGCE)に関する文献資料の整理を終え資料目録を作成した。さらに、サッチャー政権以来のイギリス教育改革の中で、教員養成、中等教育の学校撰択の実態に、市場原理が浸透してきつつある点を、先行研究から明らかにした。これらを我が国の教育実習制度と比較すると、実習期間の長短のみならず、実習校への財政的サポート、大学と実習校の連携のいずれにおいても、PGCEの卓越性が明らかになった。 2.PGCEの教育実習校調査で記録した、映像データ(実習生の授業観察、授業後の指導、教務主任へのインタビュー)を起こし、翻訳、文章化した。 3.我が国の戦後教員養成制度成立史を今一度精査した。そこでは、戦後の開放的教員養成制度が、高度成長期以降、需給関係のミスマッチを起こし、現在では膨大な社会的浪費を生んでいることが明らかになった。 これらの研究から、最終的な報告書として、我が国の教員養成改革についてひとつの政策提言を引き出した。すなわち、戦後の開放的教員制度は、すでにその役割を終え、全く異なる教員養成制度の再構築が必要になっている。その点で、他のジョブマーケットからの教育への参入を促す一年制教職課程(PGCE)は、我が国が採用することのできるモデルといえる。さらに、費用対効果からみても、修士課程化よりはるかに安価に実現する。なにより、教育実習の質と量が圧倒的に向上することにより、現職教員研修を含めて、わが国の教員の質向上に大きな貢献をするものと考えられる。
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