本研究は2005年9月に改正施行された「高度専門士」制度による専門学校の機能変化に関する実証的研究である。すなわち、修業年限においても、制度上においても大学ゼクターと同列になった専門学校が、「高度専門士」制度によって中教審答申の意図通り「柔軟な高等教育システム」として機能しているのか検証すると同時に、専門学校のもつ役割の中に「大学院との接続」という新たな機能を付加することができるのか問うものでもある。 本年度は、高度専門士の申請が認可された専門学校においてどの程度大学院に入学しているのかの実態調査をおこなった。結果としては、ほとんどの専門学校において大学院に進学している卒業生は僅少であり、現時点において専門学校と大学院の接続という新たな制度は機能しているとは言い難い現実があった。理由としては、高度専門士を設置している医療系(看護士など)や建築などの工学系分野においては、4年間に実務的な技能を磨いた後に就職を目指すといった進路形態が一般的であり、継続的に大学院を目指すことは経済的にも精神的にも大きな負担を強いることになっていると考えられる。実際に専門学校の教職員にも予備的なインタビューを行い、学生の進路状況について尋ねたが、高校を卒業し直接専門学校に入学した学生、社会経験を経て専門学校に入学した学生のいずれもが、4年間の学費に対する経済的な負担が相当に大きく、大学院に進学したいという希望があったとしても、まずは就職を選択せざるを得ないという回答が目立った。また、専門学校教育は職業技術の向上に役立つものの、大学院への進学に導くような知的専門性の涵養は立ち遅れているという現実も指摘できそうである。この点を、次年度も継続的に掘り下げていく予定である。専門学校によっては大学と同程度かそれ以上の学費を負担しなければならない分野も少なくなく、学生個人に対する就学支援体制が急務であることは、低賃金就労に関する学会発表や論考などにも発表済みである。
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