研究課題
平成21年度は、これまで研究してきた「多元的市民性」と地域、国家、グローバル像のあり方を問い直し、日本における公民像を新たに位置づけるために、「包括性」という概念を中心にして研究を進めてきた。その結果、多元的な個人や集団の「水平的関係」と同時に、国家や地域などの枠組みとの「垂直的関係」について考える必要があるとの結論に至った。特に、英国に関する研究を通じて、英国では2006年の高等教育相による「コミュニティの結束」に関するスピーチや、教育技能省が設置した"Diversity and Citizenship Curriculum Review Group"の2007年報告(通称「アジェグボ・レポート」)以降、「多文化共生社会」を維持しながらも、「公共性」のあり方やそのカリキュラムの基盤を問い直すキーワードとして「包括的シティズンシップ」という概念が注目されつつあることを明らかにした。この「多元性」と「包括性」をキーワードとして、英国および日本のシティズンシップ教育について歴史的・原理的に迫った成果が、本年度、学術論文、口頭発表、著書である。これら一連の研究で、「包括性」と「多元性」を基盤とする新たな意味での公共性のあり方を前提にすると、シティズンシップ教育についてのみならず、歴史教育や地理教育が大きく変容する可能性があることを明らかにした。古い意味での地理教育の「地域性」や、社会科学科として地理教育における探究の対象としての「地域」でもなく、再び地理教育は「包括性」の地理的広がりにどう対応するかという課題に直面している。また、歴史教育や政治教育も、今後、多元的な「公」や「アイデンティティ」にどのように歴史教育や政治教育が対応していくのかが重要な課題となる。今後、この「包括的シティズンシップ」概念にもとづく社会科全体の改善が、重要なテーマとなる。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) 図書 (1件)
日本グローバル教育学会『グローバル教育』 第12号
ページ: 2-17
'Ch1 The Origin of Japanese Citizenship Education,'Norio IKENO ed., "Citizenship Education in Japan,"(Continuum Intl Pub Group) (印刷中)
ページ: 1-15
『公民科教育』第二章「公民教育論・実践史」(社会認識教育学会編)(学術図書)
ページ: 11-20
『社会科教育のフロンティア』1部1章「社会科の成立」(保育社)
ページ: 17-22