本研究は、PISA調査(読解力)の結果が示すように喫緊の課題である子どもの読解力向上のため、小学校において授業改善に機能する新しい教材を開発することを目的としている。本年度は、ドイツで開発された読解力向上のための教材集「PISAスーツケース」の分析と調査、日本版の試作を行った。 まず現地調査として、この教材集を開発したベルリン・ブランデンブルク州立学校・メディア研究所とベルリン市内の基礎学校2校を訪れた。その結果、我が国においては初めて、 1、読書ロール、本の小箱づくりなどの読書活動に「評価して読む」ことを系統的に位置付けている。 2、読みのストラテジーを明確に指導するとともに、それを児童が自ら活用してテキストを読む学習を繰り返し位置付けている。 など、「PISAスーツケース」の特徴を生かした授業実践の特質を明らかにすることができた。 これと並行し、日本版の試作を行った。入手した「PISAスーツケース」を和訳し、その長所を取り入れつつ、現行の小学校教科書教材の指導に活用できるツールを作成した。作成過程では、 1、ツールの開発に当たっては、まず付けたい読む能力と、教材の基本構造(人物の心の揺れ動きの特徴、反復構造など)を明らかにする必要があること。 2、テキストのもつ基本構造とツールの操作方法を一致させること(例えば人物の心情の揺れ動きを、グラフを操作しながら紹介するなど)で、より大きな効果が得られること。 などを解明することができた。これらはいずれも児童の読解力向上の大きな切り口になるものと期待される。
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