研究概要 |
木年度の研究概要は以下の通りである。1. まず昨年度に収集した戦前の教育関係雑誌における公民教育関係資料についてのデータベース化の作業を行った。2. それらをもとに戦前の中等段階における公民教育がいかなる実態を持っていたか、特に昭和6(1931)年に設置され、昭和18(1943)年にカリキュラム上から姿を消した「公民科」について「修身」との関係を考慮しつつ、消滅要因を教育審議会資料等、諸資料から検討するために分析した。これらの成果としては、特に昭和12(1937)年の公民科教授要目の改訂を巡って二つの中等教育に関する研究会を事例として教育現場での実態を検討した結果、中央の行政側が大きな変革として考えている国家観念の強調に対しては、現場では実践的問題との対応というクッションによつて受け止められていたことも消滅が容易に行われることになった要因の一つであることが明らかになった。これについては3. 日本社会科教育学会第59回大会において成果報告を行った。4. 地方の公民教育の実態を解明し、さらに戦後の公民教育構想との関係を明らかにするために、昨年度に引き続き、千葉、埼玉、茨城の各県に対する公民教育関係資料め収集を各県の図書館、文書館等で行い、さらには各県の教育史関係書籍を検討する形で分析を進めた。しかし、この3県については資料の残存状況から十分な収集を行うことができず、急遽、対象地域を変更し、東京における中等教育機関の資料の収集を都立図書館等で行った。これについては現在、資料を分析し、戦後の公民教育構想との関連について分析中である。従来、公民教育は1937年の改訂を経て変質し,天皇主義的色彩が強くなった結果、1943年の改訂で教科としての存在価値がなくなり,修身に吸収されたと説明されてきたが、本研究の成果から、一概にそうした考えが現場に対して浸透して.いったとは言えず、さらにその実態を明らかにする必要があることが判った。
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