本研究の目的は、美術の本質といえる人間環境の創造が、戦後日本の中学校美術科の中でどのように扱われてきたかを明らかにしたうえで、今後の美術教育での扱い方についての検討に資する提案をまとめることである。平成21年度は、平成19年度の調査研究で明らかになった第2次大戦後の中学校美術科教育での、建築・環境デザイン教育の扱われ方の状況および平成20年度における多方面から現在の状況を把握するための前提となるデータの調査をふまえ、それらを整理して内容の分析・考察およびこれからの中学校美術科におけるよりよい建築・環境デザイン分野のあり方を目指した具体的導入に向けての問題点について検討した。まとめの中で明らかになったことは、大きく二つある。(1)建築・環境デザイン分野について中学校美術科の学習指導要領や教科書およびその他美術教育関係資料で扱う量・質の歴史的な変遷の内容、(2)現状の教育現場における建築・環境デザイン分野についての中学校美術科教員の理解・関心の絶対的な不足とそれに起因する教育現場での扱いの少なさについてである。特に後者に関して、ある特別な範疇を設定して美術作品を鑑賞することに慣れている人は一定数いるが、毎日の生活の場や街の中に存在している事物を見る見方、言い換えると事象の中で物事が関係し合って存在していることを感じとる見方を持った人は極めて限定的であることを明らかにした。この点について建築・環境デザイン分野を中学校美術科に質的にも量的にもよりよく導入していくための問題点として明確化できたことが、次の段階である具体的な導入方法の検討において重要な基礎的研究になると考えている。
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