フランスの「社会・職業生活」科における職業生活教育カリキュラムについて、プログラム及び教科書等を通して分析した結果、日本のキャリア教育カリキュラム開発に対し次のような示唆を得た。 フランスの職業生活教育に関する内容の特徴は、(1)就業準備段階で必要な「職業教育制度」「労働関連の法律や労働契約」等の知識にはじまり、職業生活上予想される諸問題を解決し、リスク防止に必要な「就業・労働に関する権利と義務」「解雇に関する規則や手続き、失業手当等の退職時の援助」「各種のリスク・労働災害」等、法学、経営学、心理学、病理学、人間工学等の専門的な知識と実用的な情報が中心である。(2)これらの教育内容は、学習者の職業生活設計に直接結びつくものだけでなく、自己の生涯発達を見通し、予想される職業生活上の問題解決や、ストレス・マネジメント、失業回避を含むリスク防止、労働組合に参加して労働者の権利と義務を果たすことの意味等を追求し、職業生活の稼働主体としてクリティカルな分析と思考を伴った労働が可能となるように系統立てられている。 日本のキャリア教育は、特別活動における進路指導を中心とし、家庭科での生活設計教育、技術科での職業技術教育にわたる分散型といえるが、フランスのように、すべての児童・生徒が将来どのような職業に就くとしても重要になる、職種や就業方法、職業生活マネジメントに関する科学的知識とそれに裏付けられた技術を習得できる教育内容が必要である。また、その教育内容は学習者の発達段階や学習要求に応じて、より具体的で、現実的なものであるとともに、ワーク・ライフバランスを実現できる「ライフキャリアデザイン教育」として、家庭科をコアとした系統的なカリキュラム開発が望まれる。
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