本研究の目的は、子ども同士の対話の促進によって、もめごと問題を子どもたちで解決できる力を育成するプログラムを開発し、メディエーション教育の可能性を拓くことにある。 平成20年度においては、小学校中・高学年用の「もめごと解決プログラム」を試行的に開発した。しかし、その一方で克服しなければならない課題も提示された。それは、今日対応が一段と求められる特別な支援を必要とする児童生徒への支援策の検討である。もめごと解決プログラムの試行的実践において、もめごと問題の発端及び誘発される経緯を精査していくと、特別な支援を必要とする児童生徒がもめごとの当事者ないしは誘発者となることが少なくなく、その対応の仕方如何でいじめのターゲットとなることが懸念された。つまり、当事者双方の個別支援策の必要性と学級集団全体に対する「集団の成員性」を高める指導の重要性が強く示唆されたのである。 以上から、平成20年度以降の研究においては、特別な支援を必要とする、あるいは何らかの配慮を必要とする児童生徒に対して、応用行動分析の視点を援用してその導入についての検討を試みている。その結果、英国の教育課程に位置づけられている、社会の一員としての責務を学ぶ一連の「シティズンシップ」カリキュラムが極めて重要な役割を担っていることが明確になってきた。この点についてさらに明確にするために、平成20年度再度英国を訪れ、ピア・メディエーション及びシティズンシップ教育に多大な業績のある、ケンブリッジ大学のDr.Hilary Cremin.氏とノッティンガム大学のDr.Edward Sellman氏らと実践的、学問的交流を深めた。今後、わが国の教育現場への導入が容易で、しかも有益なプログラムの開発を進めたい。
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