研究概要 |
本年度は、「音楽科教育における日本音楽の位置づけの歴史的検討」3年目となり、研究の総括に向けて作業の締めくくりと、音楽科教育の見直し・再構築に向けた検討を行った。 戦前の音楽教育における日本音楽に関する言説の整理として、1912(明治45)年に創刊され、1941(昭和16)年音楽雑誌統合によって廃刊となるまで安定して継続してきた音楽雑誌、『月刊楽譜』を取り上げ、その変遷から、唱歌教育と西洋音楽、日本音楽の関わりのありようをたどった。 月刊楽譜は、唱歌教育に特化した雑誌ではないが、学校、とりわけ、小学校用の音楽教材を提供するために、楽器店の事業の一つとして創刊された雑誌である。雑誌が必ずしも時代を正確に映し出しているとは限らないが、創刊から終刊に到るまで、その変り目に注目しながら、唱歌教育と西洋音楽との関係、さらには、日本の音楽への意識の変遷をたどることができる。国楽創成という大きな目的のもとで西洋音楽を受容していくが、唱歌という形のなかで西洋音楽を利用しようとした時期、そこにとどまらず、高度に発達した西洋音楽を我がものとするために力を注いだ時期、国粋主義、植民地主義に翻弄された時期へと移り変わる。そのなかで、日本の音楽の再評価が行われるが、そこには,教材の固定的な捉え方が顕著であった。音楽および資料の整理についてデジタルデータとしての取り込みを行い、1985年のフィールドワークで得られた情報を再検討した。それらをふまえ、わらべうたに特化して、音楽科教育におけるわらべうたの位置づけについて、現代まで射程にいれて、教材の固定的ではない捉え方について、私塾における活動を観察することによって、新たな視点を見いだすことが出来た。
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