日本音楽・雅楽における音律算定法(三分損益法の輸入)、及びその後の日本音楽における音律算定法(順八逆六)について考察し、日本の音律の特徴を明示するとともに、西洋音楽における12平均律との比較を通してそれぞれの特徴を論述した。あわせて、音階の特色と音組織・音楽表現の密接な繋がりについて考究し、平均律で演奏された日本の音楽は、その音楽的・表現的側面を失う危険に曝されることを指摘した。それは西洋芸術音楽の3和音中心の合唱音楽を、雅楽の音律(ピタゴラス音階)によって、3和音を唸らせながら歌うのと同様に、非音楽的な暴挙である事実を、唸りおよび第3音の倍音のズレから生じる音の荒さから明らかにした。 声の平均スペクトルは、歌声では3000〜4000ヘルツにかけて歌手のホルマントが検出され、それ以上の周波数においては大きく値が落ち込むのに対し、話声のスペクトルの落ち込みは歌声ほど極端ではないことが既に知られている。謡声はむしろその中間的な特徴を示すことを今回、謡の音声分析により明らかにした。しかしこれについては更に多くのデータを収集して分析する必要がある。また、謡のほうが2度を広めに取る傾向も検出されているが、まだ確定できるレベルではない。 今後は更に多様な日本の音楽ジャンルの音程分析を進めたい。 謡実践発表として、「紅葉狩」シテ(百足屋能舞台、京都市)、「清経」ワキ(大和屋能舞台、松山市)に出演した(素謡)。
|