本研究は、平安時代の音律理論解釈・音響分析の理論的研究、音楽実践特に能楽の謡における音程実態の解明の両面から、日本伝統音楽の音律への多角的なアプローチを行なうものである。今年度は、 1. 楽書要録の理論解釈の継続的研究。 2. 音律論と実態の乖離は遠く藤原師長(1192年)が指摘したとおりであるので、実際の演奏におけるピッチの実態研究を謡を対象に行なった。データは「日本語を歌・唄・謡う」に収録された「かえでいろづく山の朝(に)」の歌詞による異なる流派の謡。 3. 2のデータの謡を基本的音高に基づき五線譜化し、その中に現れた5度進行部分をSpectraProで音声分析を実施した。 4. 謡は西洋音楽の声楽と比べ、話的な要素も強く、音声分析も一筋縄ではいかなかったが、5度等の大きな跳躍を伴なう音程が謡われる場合、上行形では、一般に一旦僅かに下がってから上昇し、目的音程より若干上がってから下げ、そこで安定持続することが報告されているが、この謡の歌唱特性が確認された。 5. 5度であっても、下降形では、開始音程を反対に振ることは観察されなかったが、下がり終えた後同音で歌詞を謡いなおす場合は、音程の揺れが観察された。 6. 5度は多様な幅を持って謡われていることが確認できた。
|