今日、算数・数学の多くの授業では、主体的な学習の実現のために、子どもたちの多様な考え方に基づく「社会的相互作用(social interaction)」の過程が重視されている。本研究の第1の目的は、「社会的相互作用」と「数学的一般化」という2つのキーワードに注目しながら、算数・数学学習における「主観的認識から客観的認識への変容過程」を認識論的かつ記号論的に分析するための理論的枠組みを構築することにある。また、第2の目的は、その理論的枠組みに基づいて、社会的相互作用を主軸とした算数・数学の授業を設計、実施、評価しながら、理論的枠組みの規範性ならびに記述性を検証し、多様な考えに基づく算数・数学学習への実践的示唆を得ることにある。 これら2つの研究目的にそって、初年度の平成19年度には、下記の3つの研究に取り組んだ。 1.社会的相互作用に関する記号論的考察として、Steinbringの「認識論的三角形」をはじめ、CobbやPresmegらが提唱している「意味の連鎖(chaining of signification)」に関する研究、さらには、PeirceやHusserlの研究に基づきながら、数学学習に関する記号論的分析を進めているRadfordの研究などに注目した上で、社会的相互作用の過程に関する記号論的考察を行った。 2.数学的意味の構成に関する認識論的考察として、構成主義、相互作用主義、社会文化主義の3つの認識論における知識観をはじめ、数学的意味の構成に果たす社会的相互作用の位置づけなどを比較検討した。 3.我々の研究グループが既に提案している「一般化分岐モデル」について、社会的相互作用の視座からその理論的補完を行い、一般化分岐モデルの精緻化を図った。具体的には、「記号の対象化」の段階を社会文化主義の視座から理論的に補完することの必要性を指摘した。
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