本研究は大きく、(1)韓国におけるナショナリズム教育の全体的流れに見られる傾向を明らかにすること、(2)軍事政権下で行われていたイデオロギー性の強いナショナリズム教育を受けた世代が中心になっている今日の学校教育において、ナショナリズム教育がどのような論理のもとで構成、実践されているかを明らかにすることに分けられる。 19年度は、(2)の作業を中心に遂行し、その成果として次の三点を挙げることができる。 1、軍事政権から民間政権に代わっても、政府が示す学校教育の基準である"教育課程"に見られるナショナリズム教育の構造がほとんど変化していない。例えば、1970年代に開発し、ナショナリズム教育の担当教科として最も重視された国民倫理、道徳はそのまま存続してきたのである。特に、リベラル革新政権と言われた前政権下で改定された教育課程(2006)は、国史教育内容を増やすなど、ナショナリズム教育を強化している。 2、全国教員労働組合、歴史教育を考える教師の集いなど、リベラル派教員と言われる組織が中心になって開発した教科書、実践などの分析結果、排他的なナショナリズムが依然として教えられているのである。ただ、教育課程、教科書、授業レベルにおけるナショナリズム教育で取りあげられる排他の対象の変化が注目される。反共(反北朝鮮)、防日といった排他の内容が、反米、警日・警中(日本・中国を警戒する)と変わっているのである。このように、ナショナリズム教育の内容には変化が見られるものの、排他的論理は一貫している。 3、愛郷心が自然に愛国心と発展するなど、ナショナリズムの自然発生・形成は認め難く、教育(あるいは学習)によってはじめてナショナリズムが形成されるものと見られる。
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