日本型教養形成の基盤が、大正、昭和前期の国語教育やその周辺の文化構造の中でどのように生成され発展させられてきたかを研究するため、その基礎作業として、(1)国語教科書、文学読本、文芸叢書の収集と総目次作成、(2)芥川龍之介編『日本近代文芸読本』採録作家、作品の内容検討、(3)大正、昭和前期の国語教育と教養形成関係年表の作成を行い、それらをもとに国語読本類と教養形成の関係について考察してきた。 その結果、大正、昭和前期の国語教育の中で重要な教科書として、岩波編集部編『国語』、それに影響を与えた芥川龍之介編『日本近代文芸読本』、またそれに影響を与えた鈴木三重吉編『赤い鳥』と菊地寛編『文芸講座』、『文芸春秋』、『文芸読本』という教養形成の流れが明確になってきた。これらを総称して教養実践と呼ぶことができ、そのなかに国語教育実践や文芸実践、綴方実践が位置ついていることも明瞭になった。 また、これらの実践によって日本型教養として形成されたものとしては次の6種を見ておく必要があることも明らかになった。(1)いわゆる「大正教養主義」として理解されている教養観、(2)芥川龍之介や菊池寛などが展開した文芸実践に代表される教養観、(3)『赤い鳥』など文芸投稿誌に見られる教養観、(4)検定の枠内で刊行された国語読本に見られる人格形成型の教養観、(5)国民精神論に連動する国民性の自覚を促す教養観、(6)日本主義、右翼の教養観である。当時刊行された国語読本は、これらの教養観をそれぞれ表現するメディアとして機能した。
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