研究概要 |
平成21年度の研究は2つの軸に沿って実行された。 1つは「教育成功のための個別プログラム」(以下PPRE)に関する研究である。PPREはフランスの小学校・コレージュで2006年新学期から全国的に実施されている,学習困難・遅滞(おちこぼれ)に対する学習支援である。実施の実態,理念について,日本ではほとんど研究がされてこなかった。PPRE研究は当初の研究計画には盛り込まれていなかったが,現地の視学官からの助言,そしてPPREでは国語が重要な役割を果たす実情を考慮し,急遽実施した。PPREに関する多様な公式文章はもちろん,コレージュで実際に使用されている書類の分析を通じ,コレージュにおけるPPREの実施形態を詳らかにした。また,PPREの理念の根底には,生徒と教員,家庭と学校との関係を深く変えうるロジックがあること明らかにし,PPREの広がりは従来の学校文化,教員の職業アイデンティティーに根本的な見直しを迫るものであることを論じた。日本における義務教育過程における質保証の将来的な方向性を考える上で,本研究の貢献は大きい。 もう1つの軸は,コレージュにおける国語教育のカリキュラムの分析である。平成21年9月からフランスのコレージュでは,新プログラム(日本の学習指導要領に相当)が施行された。新・旧プログラムを比較対照により,新カリキュラムの方向性はもちろん,旧カリキュラムの革新性を把握できた。同時に,フランスの国語プログラムの背後には,文学史,文法を重視するいわば守旧派と,ソシュール以後の言語学,批評を中等教育に導入しようとする改革派との間での批判的対話があることが明らかにできた。最先端の言語学,文学研究を中等教育に導入しようとする国語教育のあり方は,日本の国語教育の将来を考える上で示唆に富む。
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