近代学校教育制度内において、子ども集団の中から自発的に社会規範が形成されるのは、如何にして可能か。現段階で明らかになっていることは、以下の通りである。a)幼稚園における子どもの遊びは、身体的同調を土台として成り立っている。しかし、子どもの遊びにおける同調は、集団内において輻輳的であり、維持も容易ではない。それゆえ、保育者はそのありようを読み取り、それが維持されるような関与を行う必要がある。一般には、保育者は子どもと一緒に遊ぶことが必要だとされているが、同調のありようを読み取るには、遊びの当事者ではなく第三者として遊びに外在する視点が必要である。b)小学校における授業は、教師と子ども、子ども同士の間の身体的同調は、制度的には排除されているが、フィールドとしている小学校では身体的な同調が成立し、それゆえに正しい規範が形成されていると思われた。このようなことが近代学校内において可能なのは、現段階では、次の(1)〜(5)によると考察される。(1)授業中の発言が、演技的に定型化されていることが、子どもたちの同調を喚起する装置となっている。(2)発問に対する子どもたちの応答の発言が、教師あるいは第三者に向けられているのではなく、クラスの子どもたちに対し向けられていることを意識させるようなものがあり、それによって子ども同士の応答性が意識化されている。(3)教師が子どもの発言を評価するというよりは、発言した子どもの身構えを共有していることが言語的に明示される。(4)序列化が現前することを極力避けるような授業方法が導入されている(5)((1)〜(4)の積み重ねによって)授業過程が教師主導ではなく、子どもたちによって主導されるような展開が可能になっている。平成20年度は、どのようにして(1)や(2)が子どもたちによって習得されるのか、また、(5)が形成される過程を明らかにすると共にそこでの規範形成過程を明らかにすることが課題である。
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