本研究は、身体的同調から規範意識が形成されることを論証および実証し、身体同士の同調が制度的には排除されている近代学校教育制度内において、いかにして身体的同調を復権し、子ども集団内に自発的な規範意識が形成されうるか、という問題を、フィールド調査によって明らかにするものである。20年度に明らかにしたことは、a)子どもたちの身体的同調を保障するには、保育者がモデルの役割を演じることが必要であり、そこにおいて手遊び歌などは重要な教材(文化財)としての意義を持つこと、b)学校生活における序列化の論理による規範(この規範によって、教師の設定する到達基準に著しく達しない者が教師からは「問題児」として否定的に評価され、子ども集団からは排除されることになる)を組み換えるには、序列化の論理とは別の価値体系を持つ劇空間が有効と思われること、すなわち、劇世界は、(1)哲学者坂部恵(『かたり』弘文堂)あるいは山崎正和(『演技する精神』講談社)の論をもとに考えれば、身振りやセリフのように身体的同調を引き起こす装置となりうるのであり、(2)劇世界と日常世界はどちらが現実でどちらが虚構かという絶対的な区別はない(坂部)がゆえに、劇世界の象徴体系(役割関係)は日常世界へ浸透しうる。それゆえ、学級活動として劇活動を行うことは、劇世界の役割関係を日常の象徴体系へと浸透させ、序列化の論理が背景化する可能性があり、そのことによってフィールドとなっている学級の規範が組み換わっていると考えられた。このことは、19年度報告書の本欄で述べた授業中の演技的発言パターンとも関連がある。また、それだけでなく、日常の授業活動における教師の演技性とも関連している。21年度は、これらの課題と、19年度に出された課題(授業過程が教師主導ではなく子ども主導によって展開されるのはどのようにして可能となるか)とを合わせて追求する予定である。
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