本研究は、身体的同調から規範意識が形成されることを論証及び実証し、身体同士の同調が制度的には排除されている近代学校教育制度内において、いかにして身体的同調を復権し、子ども集団内に自発的な規範意識を形成することが可能か、という問題を明らかにするものである。昨年度は、身体的同調を喚起するためには、手遊びや歌などの文化財が有効であることを明らかにし、同時に、劇的表現(クラスで行う劇活動や儀礼化されたコミュニケーション)が有効と思われることを示唆し、その実証については21年度の課題とした。本年度は、この課題を引きつぎ、フィールド調査と事例分析を行った結果、次のことが明らかとなった。1)学級生活における教師-子ども間、子ども同士の間の儀礼的コミュニケーション(子どもの一人が行った回答に対して、教師あるいは発言した子どもが「これでいいですか」と皆に問うとクラスの皆が「いいです」と唱和する、分からないことがある場合は、手を挙げて「質問してもいいですか」と言うなど、クラスでの振る舞い方が台詞のように定型化されているものを指す)は、身体的な同調を喚起すると思われる。2)その振る舞いの役割を子どもたちが受肉するがゆえに、定型化されたコミュニケーションも役割関係が「良い」関係を表すものであれば、学級生活における子どもたちの関係性もそのようなものとして形成されていく可能性が非常に高い。3)フィールドとしていた本庄クラスにおいては、定型化された振る舞いは、教授-学習的に習得されるのではなく、正統的周辺参加によって学ばれる。それゆえ、学業成績に劣る者でもこの振る舞いに習熟し、十全的参加者となれば、クラスの中心的な存在となる。4)本庄クラスで3学期に学級活動や学びの総括として行われるクラス全員での劇活動は、以上の日常的な演劇的・儀礼的コミュニケーションを自覚化させる機能を持っている。
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