前年度に改訂を行った、ビデオと教示に、なお表情以外のヒントや分かりにくさが含まれている可能性が手話者や健常被験者から指摘された。情動的プロソディーとしての表情、文法的表情、内発的な情動的表情では、表出されている時間や表出後の表情、頭部の動きに差があるのではないかという指摘である。この可能性を排除するため、手話者とのディスカッションを重ねながら、日本手話における1)情動的プロソディーを担う表情、2)文法的内容を担う表情、3)手話中ではなく内発的情動を表現する表情のビデオ刺激の再改訂をおこなった。表情の表出されている時間がどの条件でもほぼ同等となるように刺激を作成した。表出後の表情、頭部の動きの部分を刺激から削除した。また、内発的情動を表現する表情の誘発には、日本手話による内発的情動の模倣ではなく、会話場面や、その感情を誘発するような状況の想起による、より自然なものを用いた。健聴者用の発話の情動的プロソディー刺激も改訂し。再度、日本手話者と健聴対照者に対して行動実験を施行した。 結果、日本手話者は3者の識別が可能でメッセージ内容も理解できたが、健聴対照者は1)、3)と2)との識別が困難で、1)、3)の情動的内容のみ理解可能であった。 これにより、手話における情動プロソディー伝達のありかたに重要な知見が得られた。ヒントの在などを完全に排除しえたかの確認は、今後も刺激や方法を改善しながら続ける必要があると思われる。
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