研究概要 |
日本人ディスクレクシア児13名,同年齢対照児19名を対象にGoswamiらの作成した聴覚認知課題(音圧変化-単音(rise time),音圧変化-連続音(P-centre),音の長さ(duration),音の間隔(gap detection),音圧(intensity))を行った。さらにディスレクシア群には(2)音読課題,(3)音韻課題(モーラ分解,単語逆唱,母音比較)を行った。 対照児群と比較しディスレクシア群で有意に不良であった課題はrise timeのみであった(t検定,p=0.003)。課題成績が対照群平均の1.5SD以下である者の割合はrise timeとP-centreではディスレクシア群の30.8%であり,対照群の5.3%に比べ有意に多かった(χ2検定,p=0.051)。P-centreは対照児群での標準偏差が最も大きい課題であった。ディスレクシア群においてgap detectionと音韻課題の単語逆唱,母音比較に相関(r=0.591,0.562)を認めたが,同時に対照課題である形態比較とも強い相関(r=0.705)を認め,注意力など音韻能力以外の因子を反映していると考えられた。対照群との有意差を認めたrise timeは音読課題,音韻課題との相関を認めなかった。音読課題と相関を認めたものはなかった。 以上より,日本人ディスレクシア児においても英語圏のディスレクシア児と同様,音圧変化の認知が不良であることが示唆されたが,この能力が仮名の読み能力に関与しているという結果は得られなかった。しかし対照群での能力差も大きいことから,この能力が仮名の読みには関与しないが英語の習得には関連している可能性が残る。中学生以上のディスレクシア児3名のうち通常学級在籍の2名はともに英語の学習困難を認めた。今後,20〜21年度に中学生となる者を含めて評価を行い,英語習得と聴覚認知・音韻能力との関連を検討する。
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