日本人の英語習得と音韻課題・聴見認知の関係を検討するため、ディスレクシア児の追跡調査、成人の英語習得能力に関する調査に加え、バイリンガル環境にある英語習得困難児の音韻認識能力を評価した。 1) ディスレクシア児の英語習得と音韻認識・聴覚認知能力 仮名の困難を認めたディスレクシア児のうち中学に進学した7名全例が英語習得にも困難を認めた。全例が小学生時の音韻課題成績が不良であったが、聴覚認知課題が不良であったものは2課題における各2名(述べ3名)のみであり、聴覚認知障害の関与は低いと思われた。 2) 健常成人の英語習得能力と音韻認識能力 成人の音韻認識能力(母音比較)と仮名・英語の読字能力の関連を検討した。母音比較の反応時間は、仮名文字・単語・非単語の音読時間、非単語の誤読数と相関し、音韻認識能力と仮名のデコロディジグ能力の関連が示唆された。一方、母音比較課題は音素レベルの分解を求める課題であるが、英語のデコーディング課題(非単語の音読・つづり)とは全く相関を示さなかった。英語課題間では、非単語音読以外の4課題は互いに強く相関したが、非単語音読は単語音読のみと相関し、非単語つづりとも全く相関を示さなかった。このことから日本人成人は音素-書記素対応規則ではなく単語との類似性に基づいて非単語を読んでいる可能性が示唆された。非単語つづりは英語能力の高い者でも一様に不良であり、日本人成人の音素認識能力は限定的であると考えられた。 3) バイリンガル環境にある英語習得困難児の音韻認識能力(症例報告) 対象児(小学5年生)は渡米後3年を経過しても英語習得が不良であった。日本語の理解語彙が-1.9SDと不良であったが、音韻認識・デコーディング能力には英語・日本語とも学年相当であった。本児の英語習得困難には、音韻認識能力障害ではなく母語における語彙能力の弱さが関与していることが示唆された。
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