障害の早期発見・早期治療のコンセプトに基づく就学前の療育システムの作りは、障害の診断等に関する経験的知識や技術的な発展とは裏腹に、療育システム構築に関する研究の遅滞といった状態により大きく遅滞している。この理由として本研究は、以下にあげる2つの根本的問題が、存在しているという視点に立っている。 (1)専門家及び専門的知識に対する盲目的信頼とそれによる非専門家の無力化 (2)現在の地域療育システム作りのパラダイムの機能不全 高度に分業化された先進国においては専門家の存在意義やその機能を否定することは不可能であり生産的ではない。しかし、専門家によるサービスのみを意味のある活動と権威付けすることになると非専門家による類似のサービスの無力化を導きかねない。そのようになると、専門家の布置や施設設備といった顕在的社会資源の絶対量に大きな格差が存在する中では、意味のあるサービスを得るために専門家の訪問や出現を待つといった先の見えない期待をする方向性をとりやすくなる。またこのような厳然と存在する格差が有りながら、地域療育システム作りを都市部と同様に施設を作り専門家を雇用することのみで進めていうとすると、その財政的基盤の脆弱性等の問題からシステム作りが進められないといった現在の療育システム作りのパラダイムの問題がある。 この2つの問題点は不可分的に結びついているが、肥後(2003)は、これらの問題を解決する糸口として、途上国のリハビリテーションの推進パラダイムとして活用されている「地域に根ざしたリハビリーション(CBR)」の可能性を指摘している。本研究ではこの2つの問題点の存在を意識した地域療育システム作りの方法を模索し、提案することを目的しているが、その手法としてCBRのコンセプトを中心に据えた具体的な取り組みやプログラムの開発を基本におきながら、実践的な研究を指向していく。
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